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「おはよぅ……おはよう千秋」 遠くで穂高さんが呼ぶ声がする――どうして、ここにいるんだっけ? 重たい瞼をやっとという感じで開くと、嬉しそうな顔した穂高さんがばばんと目に飛び込んできた。 「ぁぅ……?」 「まだ寝ていたいだろうけど、そろそろ出発しなきゃ渋滞に巻き込まれたりとかで、到着が遅くなってしまう」 (出発……。ああ、そうか――) 「穂高さんの車で……行くんだった。今、何時ですか?」 「ん? 6時半ちょっと前。俺を誘うような顔をしていたら、今から襲ってしまうよ千秋」 「……襲わないで下さい」 久しぶりの朝のやり取りをくすぐったく思いながら、目をこすって起き上がった。穂高さんがいるだけで、朝から笑みが零れてしまうんだよな。 ――だからこそ、いい1日になりそうだ。 「穂高さん、おはよぅ」 ふわりと笑って、シャープな頬にちゅっとキスをしてあげる。寝起きが衝撃的過ぎて、挨拶を忘れるとか恥ずかしい。 「おはよう。どうしてそんな顔をするんだい? やっぱり襲ってほしいとか?」 くすくす笑いながら、頬や額にキスを落としていく。くすぐったくて、肩を竦めてしまった。 「んんっ違いますって、そんなんじゃなく。その……」 「ん……?」 大好きな穂高さんが傍にいる。それだけでどうにかなってしまいそうな自分がいて、それを必死に隠さなきゃならないのが、実は大変だったりする。 「ただ嬉しくて。穂高さ」 続きの言葉を飲み込むように、唐突にくちびるを重ねてきた。 「知ってる。俺も同じだからね」 キツく体を抱きしめてくれるその腕もぬくもりも全部、愛おしいって思うよ。 「やれやれ。こんなことをしてたら、いつまで経っても出発できないな。行こうか、そろそろ」 俺の身体を振り切るようにパッと手離して、立ち上がりながら伸びをする。均整のとれた後ろ姿に、思わず見惚れてしまうな。 さっきのやり取りを繰り返すような会話をしながらお互い着替えて、ふたり仲良く車に乗り込み、一路島へと向かった。 車中での会話は少なめにしなきゃと、結構気を遣う――穂高さんが運転してるわけだし、多少なりとも昨日の疲れを引きずっているかもしれない。 高速道路上を走っている現在の外の景色は、まったくと言っていいほど代わり栄えしなくて、とてもつまらないものだけど、隣に穂高さんがいるだけで胸がきゅっと締めつけられた。 こうしてると、はじめて穂高さんの車に乗ったときのことを思い出してしまう。あのときは全然意識なんてしていなかったけど、この人の一挙手一投足になぜだか目が離せなくて、じっと見つめてしまったっけ。 手が伸ばせば触れられるすぐ隣で、サングラスをかけて前方を見据えるその姿は、カッコイイ以外の言葉が見つからない。 「どうしたんだい? そんなもの欲しそうな顔して」 チラリとこっちを見た穂高さんは、目元を隠すような濃い色のサングラスなので表情が分からないけど、口角が上がってるから笑っていると判断できた。 「普通ですよ、この顔は」 「千秋は俺といると、その視線で煽ってくるから困ってしまう」 「煽ってなんて……」 ちょっと拗ねてみせたら、ますます笑い出す始末。 「ごめん、暇だったんでつい。ちょっと休憩しようか、そこのパーキングエリアで写真を撮ろう」 (――なぜに写真!?) そう思う俺を他所に車を停めてサングラスを外し、パーキングエリアの駐車場に降り立つと、背景が良さそうな場所を探す。 栗色の髪を風になびかせ、彼がお気に入りだという赤いシャツを身にまとっている姿は、パーキングエリアを利用している女性の目を釘付けにするものだった。 後ろをついて歩く恋人の自分は、何だか申し訳ない気持ちになる。引き立て役にもならないみずぼらしい同性の俺が恋人なんて、贅沢にもほどがあると思わされてしまったから。 「よし、ここがいいな。千秋、こっちにおいで」 人目が思いっきりある外だというのにそんなのお構いなしに、がっつり腰を抱き寄せてピッタリと密着する。 ――こんな写真を部屋に飾っていたら、兄弟に見えないと思う……。なぁんていう苦情は、後回しにしてあげた。 伝わってくる体温が直ぐ傍にあるってだけで、ドキドキが止まらない――スマホの画面に映る自分の頬がポッと赤くなるのを見て、余計に照れてしまった。そのお蔭で、さっきまで考えていた暗い気持ちが一瞬で吹き飛ぶ。 「スマイル機能を使ったからね。笑わないとシャッターしないよ」 流し目を使って俺を見下ろす穂高さんと、戸惑う表情を浮かべた自分。いきなり笑えなんて、可笑しくないのに笑えないのにな。 スマイル機能を使っての撮影だったから(しかも屋外でだぞ、目立ってしょうがないって)とりあえず一生懸命に笑ってみせたのに、穂高さんがなぜか笑ってくれない。 必死に笑う俺――ぼんやりと画面を見続けるだけの穂高さん。何だコレ。何かの罰ゲームなのか!? 頼むから穂高さん笑って!! ほらほら、人の視線が集まってきてるような気がするよ。男同士でこんなふうに密着している絵面を見て喜ぶのは、限られたごく一部の人だけなんだからさ(`Д´) ――もしかして、スマイル機能を使っての撮影って……。 「穂高さん、全部ウソだったんでしょ? 俺とイチャイチャしたいからって、ウソついたでしょ?」 「さぁ、設定ミスしただけじゃないかな。たまぁに調子が悪くなるんだよ」 撮影後に揉めたりもしたけど、いい写真が撮れたので文句をグッと飲み込んであげた俺。恋人としてはできた人間だと思う! *** 【イチャイチャ自撮り穂高目線】 島へ向かう車での移動は千秋と喋ることはできるが、思うようなふれあいができないため策を練った。 ――それが今回の自撮りである。 「ほらほら、もっとこっちに寄って。目線はカメラを釘付けに――」 なぁんて言ったけど、俺だけにその目線が欲しいと言えばよかったかな? ついでにこの照れた顔を写してしまいたくて、シャッターのボタンに触れてる指がうずうずしたのはナイショだ。 「スマイル機能を使ったからね。笑わないとシャッターしないよ」 いろんなものを誤魔化すべくニッコリ微笑んだ俺を、どことなく猜疑心を含んだ眼差しでじっと見つめる千秋に、内心ハラハラしてしまった。 体を密着させながら顔を寄せ合い、仲良く並んで撮影に挑む作戦。 こうやって、ずっと触れていたかった。触れ合っている部分が熱くなっていくのを、思わず噛みしめてしまった――できることなら今すぐにでも押し倒して、食べてしまいたいくらいだ。 可愛いよ、千秋――。 「こんな感じでいいかな?」 話しかけられても上の空になる。スマホの画面に映る俺たちは、楽しそうな恋人同士に見えた。 「穂高さんが笑わないと、シャッターが下りないよ。恥ずかしいから早くして」 ――これが永遠に続いてくれたらいいのに。君の笑顔を独り占めしたい――でもそれは千秋の自由を奪ってしまうことになるから、我慢しなければならないんだよな。どうも傍にいると、俺はワガママばかり押し付けてしまう傾向にある。気をつけなければならない。 こうやってふたりの時間を共有できるだけ、幸せだと思わなければならないのに。 千秋の笑顔が崩れかけた瞬間に、慌ててシャッターを押した。やけに真剣みを帯びた自分の顔は気に入らないが、千秋の表情が最高なので残すことにしたのだった。***「すっかり遅くなりましたね。あんなに長居をしたらお客さんだった場合、たくさんお金を払わなきゃならないんでしょ?」 スマホの時計を見ながら指摘してみたら、隣にいる穂高さんが小さく笑ったのが空気に乗って伝わってきた。「ん……。長居をしてもらいつつ、ドリンクをたくさん呑んでもらわないといけないからね」「だけど長居を感じさせない話の連続で、時間があっという間でした。やっぱりすごなぁ」 感嘆の声をあげる俺を乗せた車は、どこかに向かっているらしい。行き先を訊ねても、いちいち話を逸らすものだから、諦めて違う話題を喋った。 お店で俺たちの馴れ初めを喋らされるんだろうなと、一応覚悟していたのに、ソファに座った途端に始まったのは、土下座をした俺を称賛する言葉だったり、穂高さんが働いていた当時の話など、話題が次々と変わった。 そんな異様に盛り上がってる俺たちのテーブルに、お客様からの視線がチクチク感じるので思わず見返すと、必ずと言っていいほど、とある一点に視線が集中していた。 店内が薄暗い上に、一番奥側に座っているのにも関わらず、女性客の視線を独り占めしていた、赤いシャツを着ていた穂高さん。しかもちゃっかり指名が入っているのをトイレに行く道すがら、大倉さんが断っているのを聞いてしまった。『申し訳ございません。本日彼は商談をしに来ていて――』 なぁんて言いながら断っているのに、何とかしてよってしつこく詰め寄るお客様がいた。 『なーんもしていないのに、いつもよりお客様が多いのはどうしてだ? そこにいるだけで客寄せパンダならぬ、客寄せ元ホストなんてさ。井上、超ムカつく!』 北条さんがややふざけ気味に言っていたけど、その様子は本当に心中複雑になった。彼の人気をこういう所で、改めて思い知る。カッコイイ穂高さんの恋人が、俺でいいのかなって。 そういう気持ちを悟られたくなくて、妙にはしゃいでしまった。穂高さんはそんな俺を、どんな気持ちで見ていたんだろうか。 そのときのことを思い出し、口を噤んで車窓を眺める。するとそこは、見慣れた景色が流れていた。「ここって……」「懐かしいだろ。はじめて千秋と、一緒に来た場所だね」 バイトが終わる俺を待ち伏せしていた穂高さんが、騙して連れて来た高台の中腹。エンジンを切りライトを消すと、辺りは真っ暗闇に包まれた。「さて、と」
「店長さんの名前は大倉さんっていう人で、彼氏は北条レインっていう、現在ナンバーワンの人だよ」「新旧のナンバーワンを、見ることができちゃうんだね」「大倉さんも元ホストだからね。もしかしたら千秋の心を、奪いに来るかもしれないよ?」 こんなふうにって言いながら、強引に肩を抱き寄せて、掠め取るようなキスをする。ほんのわずかな触れ合いだったけど、心臓が一気に駆け出した。「ンッ!? も、ここ外なのにっ!」「ふっ、抜かりないよ。誰もいないから」「何言ってるんですか、あそこの通りに人がいる」 外でされた接触に思わず声を荒げると、肩を竦めて呆れた表情をあからさまに浮かべる。悪びれる様子がないせいで、余計にボルテージが上がってしまった。「大丈夫だ。ここは薄暗がりだから見えない」 何だろう、違和感ありまくりだ。今日に限って、やたらと大丈夫を口にするなんて。まるで、自分に言い聞かせるみたいに聞こえる。「そんな顔をしていると、大倉さんに好かれてしまうかもしれないね。ほら、ここだよ」 大きなビルにある扉を開けたら、カランコロンという音が鳴り響き、いきなり――。「いらっしゃいませ! シャングリラに、ようこそお越しくださいました」 大きな声と共に、目の前に現れた背の高いイケメン。少しだけ茶色い髪をなびかせながら、見るからに涼やかな一重瞼を細めて、俺の顔を見つめる。 意味ありげなその視線に思わずたじろいで、後ろにいる穂高さんを見上げたら、俺の腰を抱き寄せるなり、ぐいっと中に押し込む。(うわぁ、イケメンのサンドイッチにあってるよ。前を見ても後ろを見ても、整った顔立ちの人しかいない) 持ってる雰囲気だけじゃなく、オーラっていうのかな。それが躰から漂っているせいで、何もしていないのに酔ってしまいそうだった。「店長の大倉です。こういうお店に来るのは、はじめてなのかな?」 穂高さんから引き離すように右手を掴んで引っ張られ、あっという間に大倉さんに密着させられた。いきなりの行動に目を白黒させながら振り返ると、穂高さんはその場に佇んだまま、じっとしていた。(――どうして、助けてくれないんだろう?)「あ……」 そういえば穂高さん、大倉さんの恋人にイタズラして、大層怒らせたんだっけ。そのせいで、俺を助けることができないんじゃ……。 恋人だからこそ、自分ができることはひとつ
同性の恋人と遠距離恋愛をして、1年とちょっと。離れている時間が長い分だけ、逢ったときの感動はひとしおだった。『悪いがこの日のバイトを、19時上がりにできないだろうか? 一緒に出かけたいところがある』 なんていう嬉しいメッセージが先月末にあって、恋人の穂高さんと出かける約束をした。ゆえに鮮魚コーナーのバイトに2時間半だけ働いて外に出たら、見慣れた赤い車が従業員出入り口の前を塞ぐように停められていた。運転席に座る、穂高さんと目が合う。「北海道から、ホントに来ちゃったんだ。どういう理由を使って、お休みをもぎ取ってきたんだろう?」 そんな疑問を口にしながら、ドアを開けて助手席に乗り込む。「お疲れ様、千秋」 直接聞くことのできる労いの言葉に、口元が緩んでしまう。いつもならスマホ越しで聞く言葉なので、とても嬉しい。だからこそ、気がつくことがあるんだ。「ありがとうございます。あの穂高さん、疲れてるんじゃないんですか? 声に張りがない感じがしますけど」 ぐいっと顔を寄せたらギョッとした顔で、顎を引かれてしまった。「ま、まあ長距離運転してきたし、多少の疲れはあるかもしれないね」 誤魔化す時によくする営業スマイルで俺を見つめても、騙されない自信がある!「ところでどうやって、仕事を休んできたんですか? 漁の最盛期だっていう話を、船長さんから聞いているんですけど」 北海道のとある島で漁師をしている穂高さん。彼と恋人同士なのを知っている船長さんとは、電話でよくやり取りする仲だった。「のっぴきならない事情のために、千秋の所に行ってくると伝えたのだが」(何でそれであっさりと休みが取れちゃうんだよ、呆れた……)「どうせ穂高さんのことだから気を取られて、ドジばかりしていたんでしょうね」「どうして分かったんだい?」「えっ!!」 まったく、困った人だな。だからお休みを戴けたんだ、納得!「千秋は俺のことを、本当によく理解しているね。嬉しく思うよ」 呆れ果てて固まる俺を尻目に、ニッコリとほほ笑みながら、アクセルを踏み込んで車を出す。「……あの、どこに向かうんでしょうか?」「メンズキャバクラ、シャングリラ。俺の元職場なんだが」 むー、ホストクラブとメンズキャバクラって、何が違うんだろ? 女性客を相手にするのは、何となくわかる感じだけどな。「そこの店長さんの恋
「穂高さん、あの……」「わかってる。今の君の血を吸っても、無意味なものになるね。だが――」 柔らかい唇が俺の肌を甘噛みした。牙が当たらないように何度も噛む、優しいその行為に、自然と息があがってしまう。「大好きな君を愛したい。愛させてくれ千秋」 穂高さんの低い声色を聞いただけで、どうにかなってしまいそうだった。「ここに来てくれて、すごく嬉しいです」「つらいときは、遠慮なく呼んでほしい。能力を使って、すぐに飛んでいくよ」「お仕事、忙しいのに……」 感じて掠れてしまった俺の言葉を聞いて、穂高さんがやっと顔をあげる。見下ろしてくる視線は、とても優しさを感じさせるものだった。「確かに仕事は忙しいが、数日間俺がいなくても支障はない。それに仕事には労働者の代えがきくが、千秋はこの世にひとりしかいない、俺のとって大切な存在だ。かけがえのない君が、ここで苦しんでいるのが分かっているというのに、傍に駆けつけない恋人がいると思うかい?」「それは、そのぅ」「しかもその原因を作ったのは、この俺だ。今度からは、遠慮せずに言ってほしい。つらいって、傍に来てくれって。お願いだから、もっと我儘を言ってくれ」 切々と語った穂高さんは、俺をぎゅっと抱きしめた。息苦しさすら感じさせる抱擁なのに、今の自分にはそれすら、心地よく感じさせるもので――。「穂高さん、俺ね……」「ん?」「貴方にこうして愛されるだけで、涙が出そうになる。嬉しくて、どうにかなってしまいそうなんですよ」 さきほどまで感じていた吸血衝動が、みるみるうちになくなっていくのを感じた。あれだけ喉の奥が干上がっていたのに、今は何かで満たされている。「千秋、人間の姿に……」「戻ってるみたいですね。穂高さんの想いを躰全部で感じていたら、自然と苦しさがなくなっていきました」 穂高さんの大きな背中に腕を回して、同じように抱きしめ返してみる。すると肺の全部を使ったような、深いため息をひとつついてから「よかった」と低い声で呟いた。「きっと穂高さんの血で吸血鬼になったから、穂高さんの優しさで治まってしまうのかもしれませんね」「だったらますます、俺が駆けつけなければならないね。まいった……」 俺のオデコにこつんと自身のオデコをぶつけて、困ったように笑う大好きな顔が目の前にある。薄暗がりだし、近すぎて焦点が合わなくてよく
「なんていうか……。穂高さんが傍にいてくれるだけで、つらいのがなくなる気がします」 視線を逸らしながら、思っていたことを口にする。下半身の事情で焦っているせいか、さっきまでつらかった吸血衝動が、多少なりとも緩和されていた。「千秋は我慢強いね。俺も見習わなくてはいけないな」 カーテンの隙間から入り込む僅かな月明かりが、穂高さんを照らした。俺の顔をじっと見つめながら、印象的な瞳を意味深に細める表情を目の当たりにして、胸がきゅっとしなる。 それと同時に、栗色の髪も月明かりの加減で金髪に見えるせいで、ヴァンパイアの姿をした彼に激しく抱かれたことを思い出してしまった。「穂高さん……」 妙に掠れた自分の声が、部屋の中に響く。どことなく誘っているようなそれを聞いた途端に、目の前にある形のいい口角の端が上がった。 意味ありげな穂高さんの微笑に、何度も目を瞬かせるしかない。こんなふうに微笑まれる意味が、さっぱり思いつかないからだった。「なぁ千秋、布団の上から抱きしめた時点で君が勃っていることに、ちゃっかり気がついていたんだが――」「えっ!?」「素知らぬふりして、そのままやり過ごせるほど、できた男じゃないんでね」 穂高さんの言葉に驚いて、布団を握りしめていた力が呆気なく抜けてしまった。見ていてそれが分かったのか、次の瞬間には勢いよく布団が剥ぎ取られてしまう。 外気にさらされた躰は、ぬくもりが瞬く間に消え去り、厚手のパジャマを着ていても背筋がぞくっとした。ヴァンパイアの状態でいるときは体温が低いので、寒さが余計に堪える。「君の体温をできるだけ奪わないように、あたためてあげる。こうして――」 手にした布団を自分に背中に被せるなり、俺に跨ってきた穂高さん。そのままゆっくりと包み込むように、躰の上に倒れてきた。「あったかい……」 冷えた躰に、穂高さんの体温がとても心地よかった。俺の頬にオデコをすりりと擦りつけてから、首筋にキスを落とす。「千秋がヴァンパイアだというのに、君の香りを嗅ぐだけで、いつものように吸血したくなる」「えっ?」 いつも俺を吸血するときに噛む場所に、穂高さんの牙の側面が当たって、彼が変身したことが分かった。
「君の血が欲しくて来たんじゃない。吸血衝動のつらさを知っているから、少しでも楽になればと思ってね」 まったく触れていないというのに、俺の目を惹きつけずにはいられない穂高さんの姿を見ただけで、下半身のカタチが変わってしまったということが、ものすごく恥ずかしい。 彼はひとえに俺を想って、遠い場所からこうして、わざわざ来てくれたというのに――。 それを知られないようにすべく、両腕で布団を引っ張った。妙な振動を与えないために、躰を緊張させて強張らせる。「千秋、相当つらそうだね。呼吸もかなり荒くなってる」「ええっ、えっと布団の中にずっと引きこもっていたから、酸素が足りなくなっているのかもしれないです。……多分」 首から下は完全に布団の中に入ってる。穂高さんに布団を剥ぎ取られなければ、俺が勃っていることは知られない。「ヴァンパイアの姿でいるのは、寒くないかい? 俺が布団の中に入って、抱きしめながら温めてあげよう」 布団の上から抱きしめていた俺の躰を放し、立ち上がって両目を閉じた穂高さんは、次の瞬間には人間の姿に代わっていた。「だだだ、大丈夫ですよ。しばらく布団の中に入っていたので、そこまで寒くはありません。本当に!」「俺はもともと体温の低い男だから、もしかしたら千秋の熱を奪ってしまうかもしれないね。それが分かっているから、そんなことを言って断っているんだろう?」 眉間に皺を寄せた顔を近づけて、「他にできることがあるだろうか」なんて言われたら、断ることなんてできやしない。







